AI vs. 教科書が読めない子供たち

どんな本かをできるだけ簡潔に紹介

数学者が、これから訪れるAI社会の予想とそんな社会でどういった能力が求められるようになるかを書いた本。

こんな人にお勧め

AIに興味がある人
これからの社会に不安のある人。
若い子供(高校生未満)を持つ親。

内容紹介

『ロボットは東大に入れるか』プロジェクトについて

このプロジェクトは、国立情報学研究所が中心となって2011年から2016年にかけて行われています。
※このプロジェクトで作られたAIの名称を『東ロボくん』といいます。

2013年、初めて受けたセンター模試では偏差値45と平均を大きく下回っていましたが、2016年には偏差値57.1をマークし、全国の国公立大学の23大学30学部53学科で合格率80%の判定を得ます。

しかし、当初このプロジェクトは2021年に東大に合格をすることを目標に立ち上げられましたが、2016年11月に新たな技術革新がない限りはAIを東大に合格させることは不可能という判断のもと現在は凍結されています。

著者はこのプロジェクトディレクタを務めており、この本はこのプロジェクトを基に書かれています。

プロジェクトから考える未来図

著者はAIが『人類を滅ぼす』ことも、『人類の知能を超える(シンギュラリティが起こる)』ようなこともない(少なくとも我々の子や孫が生きるような近い未来には)と断言していますが、半数ほどの人々がAIに仕事を奪われる将来はかなり高い確率で来るのではないかと言っています。

そのような未来に対応するために、AIは何が得意で何が苦手なのかを研究結果から説明していきます。

AIが苦手なもの

AIは全て数学で書かれており、そのおおもとになる数学には意味を記述する方法がないと言います。

そのためAIは意味を理解することはできないそうです。

例としてこのような事を上げています。

実際にグーグル翻訳を使ってみましょう。

入力    私は先週、山口と広島に行った。
出力    I went to Yamaguchi and Hiroshima last week.

正しい翻訳です。けれども、山口は実は山口県の事ではなく、友人の山口だったらどうでしょう。誤訳になってしまいます。実際、「私は先週、山際と広島に行った」と入力すると、グーグル翻訳は「I wento to Yamagiwa and Hiroshima last week.」と出力します。ここに意味を理解しないAiの機械翻訳の限界があります。

日本人なら最初の文の山口は地名か人名かはわからないにしても、2つ目の文の山際はふつうは人名ととると思います。

ただ、AIは地名ととってしまう、この辺りがAIの苦手な部分だということのようです。

この例文程度の簡単なものなら近い将来、対応できるようになる可能性が高いそうですが、どちらにしろ人間のように柔軟に文章を理解することはAIには難しいそうです。

読解力の重要性

こういったことから、これからの社会で重要になってくる能力の一つは読解力ではないか?と著者は考えます。

その理由を、AIが苦手なことは『読解力』と『一般常識』『柔軟な判断力』であり、一般常識と柔軟な判断力はある程度みんな持ち合わせているのではないかと考えると、重要なのは読解力を基盤とするコミュニケーション力や理解力だと考えられると説明します。

教科書が読めない子供たち

以上のようなことから、中高生を対象に以下のような問題の読解力調査を行います。

[問1]
次の文を読みなさい。

仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジア、におもに広がっている。

この文脈において、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

オセアニアに広がっているのは(    )である。

①ヒンドゥー教  ②キリスト教  ③イスラム教  ④仏教

[問2]
次の文を読みなさい。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

Alexandraの愛称は(    )である。

①Alex  ②Alexander  ③男性  ④女性

テスト結果は、問1で中学生の正答率が62%、高校生が72%。問2で中学生が38%、高校生が65%となっています。

このテスト結果から、少なくとも上記の文程度の文章すら3~4割程度の中高生は正確に読めていないということがわかります。

さらに、OECD(経済協力開発機構)が実施している学習到達度調査では、日本は加盟国35カ国中トップ10入りを果たしているそうなので、世界的に見れば優秀である日本の子供たちですらこのような現状だということになります。

このテスト結果を受け、危機感を感じた著者は、読解力と相関関係のある因子を探すため、読書習慣、学習習慣、生活習慣などのアンケートをとりましたが、結局どういった事をすると読解力が上がるという因子を見つけることはできなかったようです。

結論

著者は、何か読解力を高める明快な方法はないかと、探しますが結局これといった方法を見つけることはできません。

実体験を基にいくつかの例をあげ、年齢を経ても読解力は上がりますということを言っていますが、はっきりとした明確な方法論があげられたりはしません。

最終的な結論としては、柔軟な発想を基に社会のニーズに合った起業などを勧める程度の助言にとどまります。

個人的感想

この本は著者がラジオ番組に出演して「AIは徹頭徹尾数学で書かれており、その数学には意味を記述する方法がない。つまりは、AIは意味を理解することはできない」という趣旨の発言が気になって買いました。

ただ、読み終わって若干、歯切れの悪い物言いが散見されたところが気になりました。

特に引っかかったのが、この本の冒頭で「シンギュラリティは来ません」と断言しているのにもかかわらず、第2章の最後で

脳科学が随分前に明らかにしたように、脳のシステムはある種の電気回路であることは間違いなさそうです。電気回路であるということは、onかoffか、つまり0と1だけの世界に還元できることを意味します。基本的な原理は計算機と同じかもしれません。それが、「真の意味でのAI」や「シンギュラリティの到来」を期待させている一面はあると思います。けれども、原理は同じでも、脳がどのような方法で、私たちが認識していることを「0,1」の世界に還元しているのか。それを解明して数式に翻訳することが出来ないかぎり、「真の意味でのAI」が登場したりシンギュラリティが到来したりすることはないのです。

というようなことも言っています。つまり、脳が認識していることをどのように「0,1」に還元しているのかが解明されれば、「シンギュラリティ」は訪れるということを言っているのと同じわけです。

ということは、現時点では解明されていなくても明日、解明される可能性もあるわけで、「シンギュラリティ」が起こると言っている人々はその辺の技術革新も含めて近い将来「シンギュラリティ」は起こると言っているのかもしれず、結局どっちなんだろうという疑問が残ります。

また、この本を読めばこれからの社会は読解力が重要な能力になっていく事はわかるのですが、読解力をあげるために何をすればいいのかが結局分からないままなので、病名を告げられたまま放置された患者のような気分になってしまいます。

一方で、昨今流行りの『シンギュラリティー』的未来像よりは、この本に書かれている未来像のほうがリアリティーを感じることができました。

これから近い将来に産業革命以上の、技術革新が起こりそれに伴い大きく社会は変わっていくことはある程度間違いのないことだと思います。

何が正しいかは未来にならないとわからないことですが、これから起こるであろうAIによる社会変化に不安を抱いている方は、読んでみると何かの指針にはなるのではないかと思います。

※AIの能力を肌で感じるためにAIが無料で作曲してくれるサイトを見つけたので紹介します。

この本の中でもAIが作曲した曲に対して触れている部分があり、著者はその感想を

ディープマインド社の「ロマン主義的なピアノ曲」は、デモで10秒だけ聞くと確かにそれらしく聞こえますが、長く聞くには絶えないのです。曲がどこに向かっているのかさっぱりわからない。だんだんイライラしてきます。

と語っています。

簡単な登録だけで無料で使え、曲のムードやテンポ、使う楽器などをいくつかの選択肢から自由に選んで一分ほど待てば曲を作ってくれます。

意外に楽しかったのでやってみてはいかがでしょうか。